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腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。

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映画だけ見て書いた捏造品。

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 その子が父親を亡くしたのは、子供と呼ぶには育ちすぎ、大人と呼ぶにはまだ幼いころだった。

 当時は私もまだ若く、会社はまさに拡大の途上にあり、毎日が充実していた。
 技術は創業者にして社長である親友が、経営は副社長である私が一手に担い、彼の産み出す革新的な製品を、私が最良の条件で生産し世界に広めてゆく。
 スリルに満ちたゲームのような仕事は忙しかったが楽しくもあり、多忙の隙を縫っては朝まで飲んで騒いで過ごすのもまた格別だった。
 問題がないのではなく、問題などものともしない。今でも、あの時期は人生最良の時の一つだったろうと思う。
 仕事でこそ衝突することもあったが、彼はやはり才能豊かな科学者で、なにより無二の親友だった。

 その彼が死んだ。

 当然のように私は悲しみにくれーーーる暇も無かった。
 葬儀の手配、仕事の引継ぎ、遺品の整理、遺族の世話、その間も自分の仕事は止められない。彼の仕事を片付けて自分の仕事を片付けてまた彼の仕事、自分の仕事、あれもこれもそれも!
 やっと一息吐いたときには彼の影はどこにもなく、周りを見る余裕が出来たころにはもう初めから彼など居なかったかのような有り様で、私が社長の椅子に掛けて葉巻を燻らせるころには誰も彼のことなど思い出しもしなくなっていた。

 順調な日々。何の問題もない日々。
 会社は安定し始め、以前のような綱渡りの必要もない。

 余りに、退屈な。
 …それが終わって二月も経ってから、ようやく私は自分の人生最良の時が終わったことに気が付いたのだった。

 秘書がその子の来訪を伝えてきたのは、まさにそんな時期だった。
 就学を終えた彼の息子が、私を頼ってきたという。

 その子は随分と疲れた様子をしていた。
 まあ、禿鷹のような親類に晒された後ではそんなものなのだろう。私は彼の遺産たる会社こそ守ったが、遺族には最低限の世話しかしなかった。
 残念ながら私が親しかったのは彼自身であって、彼の家族ではなかったのだから。

 開口一番の科白は今でも良く覚えている。
「…あなたは、僕の味方?」
「私は君のお父さんの親友で、お父さんの遺した会社の副社長だ。君の味方になるかどうかは君次第だな」
 今思えば父親を亡くして間もない子供にかける言葉ではない。が、当時の私にとってはその程度の相手だったのだから仕方がない。対して面識もない相手に律儀に時間を割いただけ感謝して欲しいくらいに思っていた。
 けれど、途端にその子は満面の笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「じゃああなたは僕の一番の味方だ」
「…なぜそう思う?」
「父さんの会社は武器を作るんでしょう?僕は誰より得意だ。だから僕は一番会社の役に立つし、あなたは僕の一番の味方になる」
 仔犬のように大きな瞳をきらきらと輝かせて、幼さを残す手が私のスーツの裾を握った。
 彼はこんな行動はとらなかった、彼はこんな顔はしなかった。

 けれど彼は奔放だった。こんなふうに。

「…そうだな。そうかもしれない」
 なんとなしに頭を撫でてやれば、本当に仔犬のように擦り寄ってくる。
 まだ子供だ。だが、ふと懐かしい興奮が蘇る。ひょっとしたら、この子は、あの最良の日々を取り戻してくれるのだろうか。
 まだ子供だ。こんな受け答えをするのだ、決して大人しい性質ではないだろう。きっと苦労する。
 だがそれでも、試してみる価値はあるはずだ。

 子供の肩を抱いてオフィスへ迎え入れる。
「では教えてくれ、君がどれだけ役に立つのか」

 さて、仔犬のお手並み拝見だ。

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