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腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。

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阿雲?

=====

 ある日、部活を終えて寮の部屋の戸を開けたら。
 メデューサが、部屋の真ん中に鎮座していた。

 メデューサが口の片側を吊り上げて言う。
 「よぉ。割と早かったな」

 「スミマセン部屋を間違えました」
 こういうときは素早さが大事だ。下手に狼狽するとかえってみっともない。
 間違い電話だってくどくど謝るよりさっさと切ったほうがいい、それと同じことなのだ。
 などと自分に言い聞かせ、戸を閉めて、深呼吸。ちょうど視線の高さにある部屋番号と2枚の名札を確認して、また深呼吸。

 もう一度ゆっくりと、自分と弟の名前の書かれた戸を開く。
 「ッ」
 今度は目の前にメデューサが居た。
 片眉を吊り上げながら、半身を開ける。その隙間から部屋の様子が見えた。
 右半分は教科書とアメフト雑誌と最低限の生活用品が整然と並び、左半分はよく分からないものが雑多に置かれた、彼自身の部屋だ。
 追い討ちをかけるように、メデューサが聞きなれた声をかけてくる。

 「なーにがマチガエマシタだよ」
 「間違いであってほしかったんだよ」
 メデューサの吐いた溜め息と、自分の口から漏れた空気はうんざりするほどそっくりだった。


 学生寮の例に漏れず、神龍寺高校の寮も部屋は狭い。同じ部屋で2人が話をするときは大抵一方が備付の机に、一方がベッドに掛けることになる。
 この部屋では雲水が机に、阿含がベッドに掛けるのが常だった。
 「で」
 机に肩肘をのせて、ベッドの上の阿含を睨めつける。
 「何なんだ、その頭は」
 「ドレッドロック」
 迷いのなさ過ぎる即答に頭痛がしてきた。思わず額に手をあててしまう。
 メデューサ頭の弟はベッドに腰掛けて髪の一房を弄くっている。まったく羨ましいほど暢気なものだ。
 「……名前、か、その…髪型の?」
 「そ」
 『そ』じゃないだろう、とか、大体うちの校則は染髪も長髪もパーマもどういうものだか知らないがアイロンとやらも禁止なんだ、とか、そもそもその頭はどういう構造になっているんだ、とか、その他諸々。
 言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのだがとにかく呆れて言葉にならない。
 「似合うだろ?」
 「…」
 確かに、似合っている。
 自画自賛というわけでもないが、日本人離れした顔立ちにバラバラとした妙な長髪は不思議なほど違和感がない。
 捉えどころのないチームメイトに『ヘレニズムっぽい』などという訳の分からない評価を下されたことがあったが、やっとそれに納得がいった気さえする。

 けれど、素直に褒めるのはちょっと癇に障るというものだ。
 規則違反なのは明らかだし、なによりそんなモップ頭に得意満面でいられては坊主のこちらの立つ瀬がない。
 大体ちょっと褒めればつけあがるに決まっているのだ、この男は。
 というわけで、わざと冷たく言い捨てた。

 「…頭悪く見えるぞ」
 「……」

 黙りこんだところをみると、多少堪えたのだろう。そう思うとさすがに少し後ろめたくて、雲水は鞄の中身を片付ける振りをして目を逸らした。
 そのままモップ頭を眺めていれば、多少どころか随分と傷ついた顔が目に入ったはずなのだが。



 当然の如く、いつものように、部活をサボって街へ出た。
 小柄ではない体格に、あまり真面目には見えない格好、それが不機嫌も露わに歩くものだから行く先行く先で人が避けていく。
 機嫌の悪さの理由は2つ。昨日作ったばかりのドレッドのせいで凝りまくってしまった肩と首。それから双子の兄の無反応。
 金も時間もやたらと注ぎ込んでようやくできたってのに、あの無関心はないだろう。
 大体最近何だか冷たかったから、ここまでやれば話の種くらいにはなるだろうと思ったのに。よりにもよって『頭悪く見える』とは。
 「クソッ」
 悪態を吐いて蹴り飛ばした壁にでかでかと貼られたポスターが目に入った。
 無色や薄い赤や青や黒のガラス、それにプラスチックや金属の様々な形のフレーム。それを身に着けたニュースキャスターみたいなお上品なモデルの女。
 相変わらずの機嫌のまま、ポスターに書かれた場所へ向かう。踊らされるのは気に入らないし癇に障るが、この際なりふり構っては居られない。



 次の日、部活を終えて寮の部屋の戸を開けたら。
 サングラスをかけたメデューサが、部屋の真ん中に鎮座していた。

 「よぉ。オカエリ」
 「…ただいま」

 何で余計にガラが悪くなってるんだ、とか、結局のところ規則違反だ、とか、どこでそんなものを買ってくるんだ、とか。

 「似合うだろ?」

 色々と思うところはあったのだが。2日連続で否定するのもなんだし、似合っているのもやはり事実だったので、ついつい、こう答えてしまった。

 「あぁ、そうだな」

 その言葉に満足気に笑った顔は、今度は逸らさなかった彼の目にもしっかり映っていた。

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