腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。
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阿雲?
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古寺じみた雰囲気を漂わせる学校裏手の雑木林を抜けると、同じく古臭い寮が見えてきた。
外灯の一つもないせいで腕時計は文字盤も針も役立たず。仕方なく取り出した携帯の時刻は日付が変わって2時間ちょっと。戻ってすぐに布団に入れば、馬鹿げた点呼に叩き起こされるまでそれなりに眠れるだろう、急いで帰ってきた甲斐があったというものだ。
隠居じみた寮生活には色々と不満だらけだが、その最たるものがあの点呼だ。年寄り並みに早寝早起きの他の連中はともかく、宵っ張りの俺には拷問に近い。
一人部屋か同居人が他の人間なら、きっとこんなことはなかっただろう。入学後1週間で作り上げた『阿含さん』のイメージのおかげで、うかうか俺の逆鱗に触れるような間抜けは---教師も生徒もひっくるめて---いなくなった。馬鹿々々しい点呼なんて無視すればそれで終わり。
だが、俺の同居人は特別だ。アイツだけは爆睡中の俺を叩き起こして廊下に引っ張り出せる。
そういうわけで、寮に帰るときは遅くともこれくらいの時間までに戻るようにしていた。
音を立てないように自室の窓に近付いて手をかけると、案の定鍵は開いていた。夜遊びを見つければ小言を漏らすくせに、締め出す気はないらしい。俺と兄弟なだけあってアイツも割と自分本位な人間だから、慈悲だのなんだのじゃないはずだ。単に結果がどうなるか分かりきってるからだろう。何にしても開いているならそれでいい、窓ガラスの割れた部屋で生活するのはこっちも御免だ。
桟に腰掛けて靴を脱いでから中に入る。どうせタイル張りの床なんだから土足でも構わない気がするが、煩いのが居るのだから仕方ない。土を落としてから戸口横の下駄箱へ。本当に、他のヤツ相手だったら絶対にこんなことやらないってのに。
ガタン。
暗かった部屋にいきなり明かりが射した。光源は言うまでもなく、開いた戸口から見える廊下の非常灯。
この部屋にノックもなしに入ってこれるのは俺の他には一人だけ。
何で、こんな時間にコイツが起きてるんだ?
「…阿含」
「……」
聞こえた声はひたすら低い。
仁王立ちで腕を組み、逆光で見えないがきっと眉間には縦皺がくっきり刻まれてるんだろう。背後に般若の面でも背負わせたら似合いそうな雰囲気だ。
まったく、水玉パジャマでそれはちょっと迫力がありすぎないか?
手にハンドタオルを握っているところを見ると、手洗いにでも起きてたんだろう。
「何か、言うことは?」
「あー…タダイマ?」
「おかえり。…他には?」
『…ぐー』
…言っておくが間抜けな返事をしてのけたのは俺じゃない。俺の腹だ。
「…お前なぁ…」
雲水の吊り上げられた眦がずるずる落ちて、いつもの八の字に戻っていく。
「…しかたねーだろ。晩飯食ってねぇし」
はぁ。
溜め息を一つだけ吐いて、もそもそと布団へ向かう。どうやら虫の居所が良いのか、お小言はないらしい。
「机の一番下の引き出し。即席麺が1つある」
「作って?」
はぁぁぁ。
さっきより長い溜め息が聞こえたが俺の知ったことじゃない。コイツの機嫌が良いときなんて俺以上にレアなんだから、こんなときくらい俺の相手をすればいいんだ。
「寝言は寝て言えこのバカ」
「腹減ってんだよ」
「それなら自分で作って食え」
「作ってくれたら食う」
「じゃあ食うな」
「だから腹減ってんだって」
「うるさい、寝かせろ。俺は眠いんだよ」
「なー、頼むって」
はあぁぁぁ。
溜め息というよりもうほとんど深呼吸だ。ここまで来たらあと一押し、伊達に付き合いは長くない。
「…雲水ー」
「…食ったらさっさと寝ろよ」
そうこなくっちゃ。
最寄のコンビニまでは30分、駅までは1時間。辺りは日が落ちれば真っ暗で、女っ気なんざ欠片も見当たらない。売店は昼しか開かなくて、自販機の中身は得体が知れない。
それでも、休日もなく朝六時に怒鳴り声の目覚ましが鳴る部屋で。
お前がそうやって、月イチくらいでちょっと甘やかしてくれるなら。
そんなもの、いくらだって耐えられるんだよ。
外灯の一つもないせいで腕時計は文字盤も針も役立たず。仕方なく取り出した携帯の時刻は日付が変わって2時間ちょっと。戻ってすぐに布団に入れば、馬鹿げた点呼に叩き起こされるまでそれなりに眠れるだろう、急いで帰ってきた甲斐があったというものだ。
隠居じみた寮生活には色々と不満だらけだが、その最たるものがあの点呼だ。年寄り並みに早寝早起きの他の連中はともかく、宵っ張りの俺には拷問に近い。
一人部屋か同居人が他の人間なら、きっとこんなことはなかっただろう。入学後1週間で作り上げた『阿含さん』のイメージのおかげで、うかうか俺の逆鱗に触れるような間抜けは---教師も生徒もひっくるめて---いなくなった。馬鹿々々しい点呼なんて無視すればそれで終わり。
だが、俺の同居人は特別だ。アイツだけは爆睡中の俺を叩き起こして廊下に引っ張り出せる。
そういうわけで、寮に帰るときは遅くともこれくらいの時間までに戻るようにしていた。
音を立てないように自室の窓に近付いて手をかけると、案の定鍵は開いていた。夜遊びを見つければ小言を漏らすくせに、締め出す気はないらしい。俺と兄弟なだけあってアイツも割と自分本位な人間だから、慈悲だのなんだのじゃないはずだ。単に結果がどうなるか分かりきってるからだろう。何にしても開いているならそれでいい、窓ガラスの割れた部屋で生活するのはこっちも御免だ。
桟に腰掛けて靴を脱いでから中に入る。どうせタイル張りの床なんだから土足でも構わない気がするが、煩いのが居るのだから仕方ない。土を落としてから戸口横の下駄箱へ。本当に、他のヤツ相手だったら絶対にこんなことやらないってのに。
ガタン。
暗かった部屋にいきなり明かりが射した。光源は言うまでもなく、開いた戸口から見える廊下の非常灯。
この部屋にノックもなしに入ってこれるのは俺の他には一人だけ。
何で、こんな時間にコイツが起きてるんだ?
「…阿含」
「……」
聞こえた声はひたすら低い。
仁王立ちで腕を組み、逆光で見えないがきっと眉間には縦皺がくっきり刻まれてるんだろう。背後に般若の面でも背負わせたら似合いそうな雰囲気だ。
まったく、水玉パジャマでそれはちょっと迫力がありすぎないか?
手にハンドタオルを握っているところを見ると、手洗いにでも起きてたんだろう。
「何か、言うことは?」
「あー…タダイマ?」
「おかえり。…他には?」
『…ぐー』
…言っておくが間抜けな返事をしてのけたのは俺じゃない。俺の腹だ。
「…お前なぁ…」
雲水の吊り上げられた眦がずるずる落ちて、いつもの八の字に戻っていく。
「…しかたねーだろ。晩飯食ってねぇし」
はぁ。
溜め息を一つだけ吐いて、もそもそと布団へ向かう。どうやら虫の居所が良いのか、お小言はないらしい。
「机の一番下の引き出し。即席麺が1つある」
「作って?」
はぁぁぁ。
さっきより長い溜め息が聞こえたが俺の知ったことじゃない。コイツの機嫌が良いときなんて俺以上にレアなんだから、こんなときくらい俺の相手をすればいいんだ。
「寝言は寝て言えこのバカ」
「腹減ってんだよ」
「それなら自分で作って食え」
「作ってくれたら食う」
「じゃあ食うな」
「だから腹減ってんだって」
「うるさい、寝かせろ。俺は眠いんだよ」
「なー、頼むって」
はあぁぁぁ。
溜め息というよりもうほとんど深呼吸だ。ここまで来たらあと一押し、伊達に付き合いは長くない。
「…雲水ー」
「…食ったらさっさと寝ろよ」
そうこなくっちゃ。
最寄のコンビニまでは30分、駅までは1時間。辺りは日が落ちれば真っ暗で、女っ気なんざ欠片も見当たらない。売店は昼しか開かなくて、自販機の中身は得体が知れない。
それでも、休日もなく朝六時に怒鳴り声の目覚ましが鳴る部屋で。
お前がそうやって、月イチくらいでちょっと甘やかしてくれるなら。
そんなもの、いくらだって耐えられるんだよ。
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