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腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。

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阿雲?

=====

 物凄く、尊敬している人が居る。
 言葉では言い表せないくらいの努力家で、前だけ見据えているような人だ。
 だから目下の自分の目標は、その人に認めてもらうこと。そしていつかは、彼の視界に入ること。

 彼は部活が終わった後も、いつも最後まで部室に残って鍛錬を続けている。
 「雲水さん、鬼熱心っスよね~。尊敬します!」
 手は止めないまま、いつものようにちょっと困ったような表情を浮かべて、こっちに視線だけ寄越してくれた。
 「ここで選手をやるからにはな、当然だ」
 軽く呼吸を整えて、それでもやっぱり手は止めずに言葉を継ぐ。
 「大体、熱心なのはお前もだろ。レギュラー入りもなるべくして、という感じだったしな」
 「ほ、ほんとっすか?」
 「あぁ。だがまぁ、負けず嫌いは程々にな」
 「ハイ…」
 ふっ、と笑いとも溜め息ともつかないものを漏らして、彼はまた鍛錬に集中し出した。
 彼は大抵こうだ。話しかければきちんと聞いて応えてくれるけど、自分の見ているものから絶対に目を逸らさない。
 いつかは雲水さんの『見ているもの』になれるだろうか。今、自分の努力を認めてくれたみたいに。

 「んだ、まだやってんのか」
 自分たちしかいなかったはずの部室に、いつの間にか阿含さんが入ってきていた。何でこの人はいつも音もなく現れるんだろうか。
 「何だはこっちの台詞だ。来るならもっと早く来い」
 確かにその通り。なのに何が気に入らないのか、阿含さんは軽く鼻を鳴らして雲水さんに顔を近づける。
 こうして並んでいる姿を見る度に思う。同じ顔の双子なのに、何でこうも似ていないんだろう。
 「どーせ無駄なんだからもう止めりゃ良いじゃねぇか」
 初めて雲水さんの手が止まった。
 「無駄かどうかは俺が決める。別にお前が付き合う必要もない」
 「…そうかよ」
 吐き捨てるなり踵を返す。来たときとは逆に、足音も荒々しく。一拍置いて、身の竦むような激しい音を立てて戸が閉まった。
 「…まったく、なんなんだろうな」
 穏やかな声がして我に返れば、雲水さんはもうトレーニングを再開している。
 「そう、っすね」
 そんなに簡単に流してしまえるような台詞だったろうか、今のは。
 「…俺、そろそろ失礼します」
 「そうか。お疲れ」
 タオルやらの荷物を適当に鞄に放り込んで、立ち上がる。
 「お先に失礼します」
 静かに戸を閉めて深呼吸を一つ、それから全力で走りだした。きっと今なら走ればまだ追いつけるはずだ。
 鍛錬なんて、確かに阿含さんには必要のないものなのかもしれない。凄い人だとは思うし、そのプレイには憧れる。監督の特別扱いだって納得はできる。
 だけど、それでもあの人を尊敬はできない。
 雲水さんと話せて、認めてもらえたような気がして嬉しかったせいだろうか。いつもなら仕方がないと思える阿含さんの行動が、どうしても許せなかった。
 だから、向こうに見えた彼の背中を、声の限りに呼び止めた。

 「阿含さん!!」

 殴られようが蹴られようが、構うものか。

 「……」
 無視はせずに、一応足を止めて振り返ってくれた。ただ、無言で物凄い威圧感を向けてくる。
 睨まれようが怯むわけにはいかない。殴られたって構うものか、と覚悟を決めて呼び止めたのだ。何か、何でも良いから、ひとこと言ってやらないと気が済まない。

 「俺、阿含さんのこと越えますから。絶対、雲水さんに、認めてもらいますから!!」

 少し三白眼気味の目でこちらを見据えて、さくさくと歩を進めてくる。
 乱雑で無造作な歩き方は、雲水さんとは全然違う。妙に絵になるところだけは似ているけれど。
 俺の目の前まで来て、ぴたりと足を止める。
 殴られる。
 覚悟していたのに、思わず目を瞑ってしまった。

 「ま、やるだけやってみれば?」

 へ?

 呆然と開いた目の端に、自分の横をすり抜けていく影が映る。
 慌てて振り返れば、阿含さんは口の端を片方だけ吊り上げて笑っていた。いつも通りの何の関心もなさそうな薄笑いだ。続いた声も、いつも以上に自信に溢れたもの。

 「無駄だと思うけどな」
 こっちを見もせずに、近づいてきたときと同じようにすたすたと去っていく。
 「アイツが視界に入れるのは自分に見合うモノだけだから」
 「…じゃぁ、見合うように、なればいいんスか?」
 ハッ。
 搾り出した掠れ声は、あっさり鼻で笑われた。

 「ひとつ良いこと教えといてやるよ。アイツの視界には、アイツが生まれたときから」

 顔は前を向いたまま、目線だけをこっちに寄越す。強い強い視線に見下ろされて、いまさらのように気が付いた。
 自信じゃない。あの眼に溢れているのは…確信だ。

 「俺がいる」

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