腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。
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阿雲?
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物凄く、尊敬している人が居る。
言葉では言い表せないくらいの努力家で、前だけ見据えているような人だ。
だから目下の自分の目標は、その人に認めてもらうこと。そしていつかは、彼の視界に入ること。
彼は部活が終わった後も、いつも最後まで部室に残って鍛錬を続けている。
「雲水さん、鬼熱心っスよね~。尊敬します!」
手は止めないまま、いつものようにちょっと困ったような表情を浮かべて、こっちに視線だけ寄越してくれた。
「ここで選手をやるからにはな、当然だ」
軽く呼吸を整えて、それでもやっぱり手は止めずに言葉を継ぐ。
「大体、熱心なのはお前もだろ。レギュラー入りもなるべくして、という感じだったしな」
「ほ、ほんとっすか?」
「あぁ。だがまぁ、負けず嫌いは程々にな」
「ハイ…」
ふっ、と笑いとも溜め息ともつかないものを漏らして、彼はまた鍛錬に集中し出した。
彼は大抵こうだ。話しかければきちんと聞いて応えてくれるけど、自分の見ているものから絶対に目を逸らさない。
いつかは雲水さんの『見ているもの』になれるだろうか。今、自分の努力を認めてくれたみたいに。
「んだ、まだやってんのか」
自分たちしかいなかったはずの部室に、いつの間にか阿含さんが入ってきていた。何でこの人はいつも音もなく現れるんだろうか。
「何だはこっちの台詞だ。来るならもっと早く来い」
確かにその通り。なのに何が気に入らないのか、阿含さんは軽く鼻を鳴らして雲水さんに顔を近づける。
こうして並んでいる姿を見る度に思う。同じ顔の双子なのに、何でこうも似ていないんだろう。
「どーせ無駄なんだからもう止めりゃ良いじゃねぇか」
初めて雲水さんの手が止まった。
「無駄かどうかは俺が決める。別にお前が付き合う必要もない」
「…そうかよ」
吐き捨てるなり踵を返す。来たときとは逆に、足音も荒々しく。一拍置いて、身の竦むような激しい音を立てて戸が閉まった。
「…まったく、なんなんだろうな」
穏やかな声がして我に返れば、雲水さんはもうトレーニングを再開している。
「そう、っすね」
そんなに簡単に流してしまえるような台詞だったろうか、今のは。
「…俺、そろそろ失礼します」
「そうか。お疲れ」
タオルやらの荷物を適当に鞄に放り込んで、立ち上がる。
「お先に失礼します」
静かに戸を閉めて深呼吸を一つ、それから全力で走りだした。きっと今なら走ればまだ追いつけるはずだ。
鍛錬なんて、確かに阿含さんには必要のないものなのかもしれない。凄い人だとは思うし、そのプレイには憧れる。監督の特別扱いだって納得はできる。
だけど、それでもあの人を尊敬はできない。
雲水さんと話せて、認めてもらえたような気がして嬉しかったせいだろうか。いつもなら仕方がないと思える阿含さんの行動が、どうしても許せなかった。
だから、向こうに見えた彼の背中を、声の限りに呼び止めた。
「阿含さん!!」
殴られようが蹴られようが、構うものか。
「……」
無視はせずに、一応足を止めて振り返ってくれた。ただ、無言で物凄い威圧感を向けてくる。
睨まれようが怯むわけにはいかない。殴られたって構うものか、と覚悟を決めて呼び止めたのだ。何か、何でも良いから、ひとこと言ってやらないと気が済まない。
「俺、阿含さんのこと越えますから。絶対、雲水さんに、認めてもらいますから!!」
少し三白眼気味の目でこちらを見据えて、さくさくと歩を進めてくる。
乱雑で無造作な歩き方は、雲水さんとは全然違う。妙に絵になるところだけは似ているけれど。
俺の目の前まで来て、ぴたりと足を止める。
殴られる。
覚悟していたのに、思わず目を瞑ってしまった。
「ま、やるだけやってみれば?」
へ?
呆然と開いた目の端に、自分の横をすり抜けていく影が映る。
慌てて振り返れば、阿含さんは口の端を片方だけ吊り上げて笑っていた。いつも通りの何の関心もなさそうな薄笑いだ。続いた声も、いつも以上に自信に溢れたもの。
「無駄だと思うけどな」
こっちを見もせずに、近づいてきたときと同じようにすたすたと去っていく。
「アイツが視界に入れるのは自分に見合うモノだけだから」
「…じゃぁ、見合うように、なればいいんスか?」
ハッ。
搾り出した掠れ声は、あっさり鼻で笑われた。
「ひとつ良いこと教えといてやるよ。アイツの視界には、アイツが生まれたときから」
顔は前を向いたまま、目線だけをこっちに寄越す。強い強い視線に見下ろされて、いまさらのように気が付いた。
自信じゃない。あの眼に溢れているのは…確信だ。
「俺がいる」
言葉では言い表せないくらいの努力家で、前だけ見据えているような人だ。
だから目下の自分の目標は、その人に認めてもらうこと。そしていつかは、彼の視界に入ること。
彼は部活が終わった後も、いつも最後まで部室に残って鍛錬を続けている。
「雲水さん、鬼熱心っスよね~。尊敬します!」
手は止めないまま、いつものようにちょっと困ったような表情を浮かべて、こっちに視線だけ寄越してくれた。
「ここで選手をやるからにはな、当然だ」
軽く呼吸を整えて、それでもやっぱり手は止めずに言葉を継ぐ。
「大体、熱心なのはお前もだろ。レギュラー入りもなるべくして、という感じだったしな」
「ほ、ほんとっすか?」
「あぁ。だがまぁ、負けず嫌いは程々にな」
「ハイ…」
ふっ、と笑いとも溜め息ともつかないものを漏らして、彼はまた鍛錬に集中し出した。
彼は大抵こうだ。話しかければきちんと聞いて応えてくれるけど、自分の見ているものから絶対に目を逸らさない。
いつかは雲水さんの『見ているもの』になれるだろうか。今、自分の努力を認めてくれたみたいに。
「んだ、まだやってんのか」
自分たちしかいなかったはずの部室に、いつの間にか阿含さんが入ってきていた。何でこの人はいつも音もなく現れるんだろうか。
「何だはこっちの台詞だ。来るならもっと早く来い」
確かにその通り。なのに何が気に入らないのか、阿含さんは軽く鼻を鳴らして雲水さんに顔を近づける。
こうして並んでいる姿を見る度に思う。同じ顔の双子なのに、何でこうも似ていないんだろう。
「どーせ無駄なんだからもう止めりゃ良いじゃねぇか」
初めて雲水さんの手が止まった。
「無駄かどうかは俺が決める。別にお前が付き合う必要もない」
「…そうかよ」
吐き捨てるなり踵を返す。来たときとは逆に、足音も荒々しく。一拍置いて、身の竦むような激しい音を立てて戸が閉まった。
「…まったく、なんなんだろうな」
穏やかな声がして我に返れば、雲水さんはもうトレーニングを再開している。
「そう、っすね」
そんなに簡単に流してしまえるような台詞だったろうか、今のは。
「…俺、そろそろ失礼します」
「そうか。お疲れ」
タオルやらの荷物を適当に鞄に放り込んで、立ち上がる。
「お先に失礼します」
静かに戸を閉めて深呼吸を一つ、それから全力で走りだした。きっと今なら走ればまだ追いつけるはずだ。
鍛錬なんて、確かに阿含さんには必要のないものなのかもしれない。凄い人だとは思うし、そのプレイには憧れる。監督の特別扱いだって納得はできる。
だけど、それでもあの人を尊敬はできない。
雲水さんと話せて、認めてもらえたような気がして嬉しかったせいだろうか。いつもなら仕方がないと思える阿含さんの行動が、どうしても許せなかった。
だから、向こうに見えた彼の背中を、声の限りに呼び止めた。
「阿含さん!!」
殴られようが蹴られようが、構うものか。
「……」
無視はせずに、一応足を止めて振り返ってくれた。ただ、無言で物凄い威圧感を向けてくる。
睨まれようが怯むわけにはいかない。殴られたって構うものか、と覚悟を決めて呼び止めたのだ。何か、何でも良いから、ひとこと言ってやらないと気が済まない。
「俺、阿含さんのこと越えますから。絶対、雲水さんに、認めてもらいますから!!」
少し三白眼気味の目でこちらを見据えて、さくさくと歩を進めてくる。
乱雑で無造作な歩き方は、雲水さんとは全然違う。妙に絵になるところだけは似ているけれど。
俺の目の前まで来て、ぴたりと足を止める。
殴られる。
覚悟していたのに、思わず目を瞑ってしまった。
「ま、やるだけやってみれば?」
へ?
呆然と開いた目の端に、自分の横をすり抜けていく影が映る。
慌てて振り返れば、阿含さんは口の端を片方だけ吊り上げて笑っていた。いつも通りの何の関心もなさそうな薄笑いだ。続いた声も、いつも以上に自信に溢れたもの。
「無駄だと思うけどな」
こっちを見もせずに、近づいてきたときと同じようにすたすたと去っていく。
「アイツが視界に入れるのは自分に見合うモノだけだから」
「…じゃぁ、見合うように、なればいいんスか?」
ハッ。
搾り出した掠れ声は、あっさり鼻で笑われた。
「ひとつ良いこと教えといてやるよ。アイツの視界には、アイツが生まれたときから」
顔は前を向いたまま、目線だけをこっちに寄越す。強い強い視線に見下ろされて、いまさらのように気が付いた。
自信じゃない。あの眼に溢れているのは…確信だ。
「俺がいる」
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