腐った妄想の掃き溜め。 slashの気が多分にあるので要注意。
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阿雲?
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自分とよく似て、その実少しも似ていない顔が色を失っていく。
それを眺める自分の眼は、きっとこれ以上ないほど冷たいことだろう。
「…なんだって?」
珍しいことだ。こいつは滅多に聞き返すということをしない。
耳聡いせいもあるだろうが、何よりも人の話を聴く気がないせいに違いない。
「聞こえただろ」
意識して、低く小さく、けれどはっきりと口に出す。
狭い狭い寮の部屋、床の古びてひび割れたタイルの冷たさが足元から這い上がってくる。これがそのまま声になって出て行けばいいのに。
「卒業したら、本山へ行く。そのままあちらの方の寺の養子に入る予定だ」
弟の顔から面白いように普段の嘲笑が剥がれ落ちていく。きっと自分くらいしか見ることはないだろう、こいつの素の顔。
幼いころは鏡のように感じていたその顔に、違和感を覚え始めたのはいつだったろう。
「…んな、急に」
「話自体は中学のころからあったんだよ。真剣に考え始めたのは高校に入ってからだけどな」
「ふざけてろよ」
初めて話を聞いたときには、自分も心中そう吐き捨てたものだったが。今ではむしろその日を心待ちにしていた。
正確に言うなら、その日が来ることをコイツに告げる、今日この日を。
「もう、決めたんだ。あちらの家族にも何度か会っている」
「…それにしたって。ロクに知りもしない連中の息子になるって?」
表情はそのまま、それでもいつもの笑いを含んだ声で、小馬鹿にしたような言葉を投げつけてくる。
もう普段の調子を取り戻してしまったらしい。回転の早いコイツにしては時間がかかったほうなのだろうが。
きっとコイツのなかでは、問いに対する俺の答えは決まりきっていて、俺の行動など全て掌握しているつもりなのだろう。
…そうはいくものか。
「大体、アメフトはどうすんだよ? お前のダイスキなアメフトは」
「端から高校までと決めていた」
即答されて凍りついた姿に、どうしようもない満足が湧き上がる。
そうだ。自分はずっとずっとこの日を待ちわびてたんだ。
息が止まった。
胸倉を掴まれて背中を壁に打ち付けたらしい。ひとしきり咳き込んでから、やっとその事実に気づく。
「ふざけんな」
虹彩の動きが見えるほど間近で、唸り声が響いた。
予想できていたのに、それでも跳ね上がる心音がうっとおしい。
「お前は俺のもんだろ?」
冷え切った臓腑と叩きつけられる傲慢さに吐き気がした。
ほんのわずか、心の隅に残っていた期待があっさりと消えていく。
「俺の手の届かないところになんざ行かせると思ってんのか?」
それこそ、自分の名前のように。
「本気で俺から離れるつもりなら、」
ひょっとしたら、思いとどまれるかと思ったのに。
「このまま縊り殺してやる…!」
このバカなら本気でやりかねない。現に頸がミシミシ音を立てている。
このまま俺を殺したらコイツはその後泣くのだろうか笑うのだろうか。妙な疑問がふと湧いてきた。どちらでもないような気もするし、両方な気もする。そろそろ視界が白くなってきた。本当に死ぬ前にとっととこの茶番を終わらせなければ。痛む喉から無理矢理息を絞り出す。
「…好きにしろ。お前が何をしても、俺は二度とお前を見ない」
僅かに息を呑む音がして、呆然と眼を見開いた弟の顔が眼に入った。
一拍置いて、眉をひそめて奥歯を噛み締めた、怒鳴り出しそうとも泣き出しそうともつかない歪んだ表情に変わる。
こいつのこんな顔を見れるのは自分くらいだろうと、かつては抱いた優越感も哀れみも、くだらなすぎてもう何の意味もない。
「…俺にどうしろっつーんだよ…!!」
胸倉を掴んだまま、俺の首に顔を埋める。
こんな奴だってたった一人の弟だ。素直に甘えられて、悪い気のするわけがない。
そうやって、何度絆されてきたことだろう。
「離せよ」
肩の重みを振り解かないのは、哀れに思うからじゃない。顔を見たくないからだ。
「俺はお前のものじゃない」
双子の癖に才能云々、散々比較され続けてきた。それがつらくなかったわけではないけれど。
「いつまでも俺に纏わりつくな」
そんなものよりよっぽど厭わしかったのは、才能も素行も何も関係ない、こいつ自身。
「俺に、お前は、必要ない」
消えてくれ、俺の世界から。
そのためならなんだってやってやる。
開ききった真っ赤な傷口に、塩を山ほど塗りこんでやろう。
さあ。
「その、手を、離せ」
ずるずると情けなくへたり込む弟の影に、最早何の興味も湧かなかった。
だから、視界が滲んでいくのは締め付けられた喉の痛みのために違いない。
それを眺める自分の眼は、きっとこれ以上ないほど冷たいことだろう。
「…なんだって?」
珍しいことだ。こいつは滅多に聞き返すということをしない。
耳聡いせいもあるだろうが、何よりも人の話を聴く気がないせいに違いない。
「聞こえただろ」
意識して、低く小さく、けれどはっきりと口に出す。
狭い狭い寮の部屋、床の古びてひび割れたタイルの冷たさが足元から這い上がってくる。これがそのまま声になって出て行けばいいのに。
「卒業したら、本山へ行く。そのままあちらの方の寺の養子に入る予定だ」
弟の顔から面白いように普段の嘲笑が剥がれ落ちていく。きっと自分くらいしか見ることはないだろう、こいつの素の顔。
幼いころは鏡のように感じていたその顔に、違和感を覚え始めたのはいつだったろう。
「…んな、急に」
「話自体は中学のころからあったんだよ。真剣に考え始めたのは高校に入ってからだけどな」
「ふざけてろよ」
初めて話を聞いたときには、自分も心中そう吐き捨てたものだったが。今ではむしろその日を心待ちにしていた。
正確に言うなら、その日が来ることをコイツに告げる、今日この日を。
「もう、決めたんだ。あちらの家族にも何度か会っている」
「…それにしたって。ロクに知りもしない連中の息子になるって?」
表情はそのまま、それでもいつもの笑いを含んだ声で、小馬鹿にしたような言葉を投げつけてくる。
もう普段の調子を取り戻してしまったらしい。回転の早いコイツにしては時間がかかったほうなのだろうが。
きっとコイツのなかでは、問いに対する俺の答えは決まりきっていて、俺の行動など全て掌握しているつもりなのだろう。
…そうはいくものか。
「大体、アメフトはどうすんだよ? お前のダイスキなアメフトは」
「端から高校までと決めていた」
即答されて凍りついた姿に、どうしようもない満足が湧き上がる。
そうだ。自分はずっとずっとこの日を待ちわびてたんだ。
息が止まった。
胸倉を掴まれて背中を壁に打ち付けたらしい。ひとしきり咳き込んでから、やっとその事実に気づく。
「ふざけんな」
虹彩の動きが見えるほど間近で、唸り声が響いた。
予想できていたのに、それでも跳ね上がる心音がうっとおしい。
「お前は俺のもんだろ?」
冷え切った臓腑と叩きつけられる傲慢さに吐き気がした。
ほんのわずか、心の隅に残っていた期待があっさりと消えていく。
「俺の手の届かないところになんざ行かせると思ってんのか?」
それこそ、自分の名前のように。
「本気で俺から離れるつもりなら、」
ひょっとしたら、思いとどまれるかと思ったのに。
「このまま縊り殺してやる…!」
このバカなら本気でやりかねない。現に頸がミシミシ音を立てている。
このまま俺を殺したらコイツはその後泣くのだろうか笑うのだろうか。妙な疑問がふと湧いてきた。どちらでもないような気もするし、両方な気もする。そろそろ視界が白くなってきた。本当に死ぬ前にとっととこの茶番を終わらせなければ。痛む喉から無理矢理息を絞り出す。
「…好きにしろ。お前が何をしても、俺は二度とお前を見ない」
僅かに息を呑む音がして、呆然と眼を見開いた弟の顔が眼に入った。
一拍置いて、眉をひそめて奥歯を噛み締めた、怒鳴り出しそうとも泣き出しそうともつかない歪んだ表情に変わる。
こいつのこんな顔を見れるのは自分くらいだろうと、かつては抱いた優越感も哀れみも、くだらなすぎてもう何の意味もない。
「…俺にどうしろっつーんだよ…!!」
胸倉を掴んだまま、俺の首に顔を埋める。
こんな奴だってたった一人の弟だ。素直に甘えられて、悪い気のするわけがない。
そうやって、何度絆されてきたことだろう。
「離せよ」
肩の重みを振り解かないのは、哀れに思うからじゃない。顔を見たくないからだ。
「俺はお前のものじゃない」
双子の癖に才能云々、散々比較され続けてきた。それがつらくなかったわけではないけれど。
「いつまでも俺に纏わりつくな」
そんなものよりよっぽど厭わしかったのは、才能も素行も何も関係ない、こいつ自身。
「俺に、お前は、必要ない」
消えてくれ、俺の世界から。
そのためならなんだってやってやる。
開ききった真っ赤な傷口に、塩を山ほど塗りこんでやろう。
さあ。
「その、手を、離せ」
ずるずると情けなくへたり込む弟の影に、最早何の興味も湧かなかった。
だから、視界が滲んでいくのは締め付けられた喉の痛みのために違いない。
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